introduction

2011年春、私は原発に会いに行く。

<はじめに>
東日本大震災から1ヵ月が経った4月某日。「私」は頭を抱えていた。
劇場の中より外がはるかに劇的になってしまった今、どんな演劇が演劇として成り立つのか。
悩んだ末たどり着いたのはフィクションを放棄するという選択だった。
つくりものが現実に勝てないなら、いさぎよく敗北を認め、現実そのものを舞台に載せよう。とはいえ、現実にもいろいろある。「私」が知っているのは、あくまでも3月11日以降の「私」自身の現実だけだ。ならばそれを描こう。結婚の予定はおろか、恋人もいない、売れない劇団をひとりでやっている33歳の女が、なかば自暴自棄になりながら眺めた東京の現実、演劇の現実、そして勢いだけで向かった福島で見た景色。


<ものがたり>
その日、「私」はみんなから避けられている福島第一原発に自分を重ね合わせてしまった。
「いつ死んでもいい」が口癖だった「私」は「彼」に会いに行くことを決める。まるで片想いの相手に会いに行くように。そんなことして何になるのか。その先に何か答えでもあるというのか。そもそも、「彼」に会いにいくことはひとつの可能性を捨てることにはならないか。
原発まであと20キロ。

自分の人生を見失った愚かで不謹慎な女の旅が始まる。